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2012年6月6日水曜日

【地方欄:丹波】おじいちゃんの技



ありがとうございます、 muffの藤本です。
mufufutimes曜日は僕が担当します。よろしくお願いします。

mufufutimesは「デジタル自治報でございます。
雑誌でもなければ、新聞でもなく、我々のイメージはただただ自治報でございます。

あましん(尼崎信用金庫)が地域のベストパートナーを目指すのであれば、我々は貴方にそっと寄り添い、ムフっと微笑めてほんの少し元気を与えられる存在になりたい


貴方の余暇のベストパートナーを目指します。

貴方の余暇のベストパートナーにね。(かなり気に入りました)



・・・それでは自治報の地方欄をご覧ください。



【地方欄:丹波】「おじいちゃんの技」

丹波は秘境の地


僕は去年の12月にサラリーマンを卒業し(すいません、辞めました)、今兵庫県は丹波市内の「これぞ田舎」という風景の中で生活をしている。
ツノダに僕の担当日は「ど田舎の水曜日」と付けられたけれど、ここ丹波は秘境の地と言いたい。
本当に素晴らしいところだ。
こんなに素晴らしいのに人が少ない。
若者が少ない。
軽トラが多い。
カエルも山ほどいる。
ああ、こんなにも空気が美味しいのに・・・・・

そんな愛すべき丹波で僕はいま無農薬のお茶と茶道用の高級炭を作る会社に弟子入りしている。
会社からわずか30メートル先のボロボロの大きな平屋ぼっとん便所ハウス(通称:ボロ家)にチャイ(子犬)と暮らしているのだ。 


おじいちゃんとおばあちゃん


丹波ではだいたい5月中旬から下旬にかけてが新茶の時期だ。
茶栽培で有名な静岡や九州よりも少し遅い。(秘境の地ならでは)


この時期は一年で一番忙しく、また最も大事な時期だ。
そのため、この時期は社員全員がフル回転。と言っても、社長と社長のお父さん(以下、おじいちゃんと呼ぶ)とお母さん(以下、おばあちゃんと呼ぶ)、奥さん、そして僕だけだ。
典型的な家内工業である。
あるとき、社長とおじいちゃんと僕は、朝から茶畑で茶を刈り、一休みしていた。
いつものようにおばあちゃんが大きな声で話をしながらアイスクリームとお茶、パンを持ってきてくれた。
社長と僕は、おばあちゃんから半ば強引に大きなアイスクリームを渡され、その優しい心遣いに感謝し、頭がキーンとなりながらも勢いよく食べる。

一方、おじいちゃんはおばあちゃんからの「アイスクリームを食べろ」という要求をまったくの無視という形で拒否する。
しかし、おばあちゃんは簡単には諦めずに、「暑いから食べたほうがいい」、「溶けるから食べたほうがいい」、「せっかく持ってきたのに・・・食べなあかん」といった具合に、いったん話が違う方向にいっても必ずアイスクリーム食べろと話を戻した。
しかし、おじいちゃんはまるで耳が聞こえないかのように遠くの茶畑に目をやり、「まだあっちの茶を刈るのには早いかのぉ」と独り言のようにつぶやいている。

・・・おばあちゃんはまだ諦めない。
よく野球は2アウトからと言うが、おばあちゃんの場合、アイスクリームが溶けるまでといった感じであろうか、まだまだおじいちゃんに圧力をかけ続けている。試合は序盤にすぎないのか。

社長も僕もどうしていいかわからず、別の何気ない話をしておばあちゃんに諦めてもらい、小さなクーラーボックスにアイスクリームを直して、家に持って帰ってもらうことを願う。
しかし、おばあちゃんは諦めない。

・・・10分ほどが経った。
明らかに空気が悪くなってきた。大自然の中にいるというのに。
最後の手段として、社長がそろそろ仕事を始めようかと休憩の終わりを告げようと腰をあげたとき、おばあちゃんはまだまだ訴え続けていた。
 
しかし、突然おじいちゃんが叫んだ。


「あああああああああああ・・・」

社長と僕は目を丸くした。
あとでわかったことだが、社長も僕もあの瞬間、御年82歳のおじいちゃんがついにボケてしまったのだと悟っていた。

時が止まったかのように静かだった。

誰も話さなかった。


竹藪から笹の茂る音だけが妙に聞こえた。


奇声をあげたおじいちゃんが小さな声で僕に話しかけた。 
「これでばあさんも少しは黙るじゃろ?」 

おじいちゃんはおばあちゃんとの約60年の夫婦生活の中でこの技を生み出したのだ。
この必殺技を。

気が付けばおばあちゃんは黙ってクーラーボックスにアイスクリームをしまい、とぼとぼと家のほうに向かって歩いていた。

山のキジがいつもと変わらず等間隔の時間を空けてギャーと大きな声で鳴いていた。






 また来週、お会いしましょう。




ど田舎の水曜日,フジモトユウキ