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2012年10月16日火曜日

【コラム欄】馬鹿になったきっかけ


このアンケート、少し乱暴すぎやしないだろうか


人がなにかをはじめるには「きっかけ」がいる。

これはべつになにげなくはじめたことにも必要になるので、人は「きっかけ」を生産、嘘で固めた関係作りに従事しなければならない場合もある。
なぜなら人は「きっかけ」を執拗にききたがるからだ。

「どうしてタバコ吸ってるの?」

人は世間的によくないとされていることについてはさらに「きっかけ」をききたがる。
ほっとけとおもうけど、眉間にシワを寄せてきいてくるものだから仕方なくちゃんとしたことを云わないといけない気持ちになってこう答える。

「昔ある映画でロバートデニーロがめちゃくちゃかっこよくタバコふかしててさ、なんか、うん、かっこよかったんだよね」

嘘だ。なんとなく吸ってみただけなんだから。
というか「ある映画」ってなんだ。たぶんそんな映画はない。あったとしてもデニーロはチョコレートパフェでも食っていたはずだ。
パフェをかっ喰らうデニーロなんて渋すぎるだろう。

まあだけど、相手は「きっかけ」を知りたがっている。しょうがないよなと同情する。


「きっかけ」の無駄追いは日常的に起こる。

「なんでハンバーグなの?」
ファミレスでうっかりハンバーグを注文してしまったらこうだ。

「好きだから」
「なんで?」

食い気味に追ってくる。
なんでそんなに無駄に追ってくるのかこっちがききたいくらいだがもう逃げられない。
「ハンバーグを好きになったきっかけ」を話さなければならない。

「………え、なんでって…小さいころ母親がよくつくってくれたんだよ、特別な日、たとえば誕生日とかクリスマスとかには豪華なやつ。そういえば小学校のころ、通知表がよかったときもハンバーグだったな。それに、おいしいし…」

そう、「おいしい」からなんだよな。ほっといてくれよ。豪華なハンバーグってなんなんだ。



ところでぼくはなんでお酒を呑みはじめたんだったか。

大学での飲み会だったか。高校の学園祭の打ち上げか。
小学校の頃、父親のPTAソフトボールの花見の席でもたしか飲まされた記憶がある。

いつからこんなに酒に毒されてしまったのか、その「きっかけ」が気になってしょうがなくなってしまったときふと、親が昔こんな話をしていたのを思いだした。

「あんたこんなちっちゃいよちよち歩きの頃、『お茶よ』っていってビール飲ませたらねぇ、ふらふらふらふら歩いていって机の角に頭ぶつけて倒れてからねぇ、大笑いよ」

これだ。間違いなくこれだ。


おそらくぼくはここから少し、頭が馬鹿になっちゃった。



ひとり歩きの火曜日,ツノダヤマト