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2012年7月11日水曜日

【地方欄:丹波】炭焼きという仕事

炭焼きという仕事


僕は今、丹波でお茶の勉強をしているが、今年1月から3月までの冬はおじいちゃんに炭焼きを教えてもらった。

おじいちゃんの作る炭は茶道用道具炭(黒炭)だ。

お茶席で使われるこの炭は必ず「くぬぎ」の木を炭材として使用する。
世界中で作られる黒炭のうち、くぬぎを炭材としたものは、切り口に菊の花のように放射状に美しい割れ目ができ、「菊炭」と呼ばれ、黒炭の中でも最高級の炭とされている。
この菊炭は、ただ単にくぬぎの木を使えば作れるものではない。
木の皮が剥がれてはいけない、お茶席で使用される時に余分なガスの発生をなくす、それらのための技術は並大抵なものではない。
菊炭は、白炭の備長炭とともに世界の木炭の中でも最高傑作品として賞賛されているが、おじいちゃんはこの菊炭を作ることができる貴重な人なのだ。


おじいちゃんのこしらえた茶道用道具炭(菊炭)


この道40年のおじいちゃんの職人技、見てて惚れ惚れする一つ一つの所作。

ただ背中を眺め、口数の少ないおじいちゃんの技を「口で」教えてもらうのでななく、「見て」学ぶということ。


2012年2月のフジモト家(通称ボロ家)



丹波の冬は寒い。

でも、大木を斧や機械を使って割り、太さを揃え、3尺(約90センチ)の長さに揃え、釜口の狭い炭釜の中へ一本一本立てて並べていく・・・そんな力仕事をやっていると、いつしかTシャツ一枚になって木を運んでいた日も少なくなかった。


炭窯の中の様子。木を一本一本隙間なく立てていく。



これまでの記事の中でも何度か紹介している「おじいちゃんの名言」

仕事中、おじいちゃんはほとんど言葉を発しない。
作業の指示を出すときぐらい。

でも、一息いれるために炭窯の前で小さなドラム缶の中に炭をいこし、暖をとりながら茶を飲んでいるときは別。
色々と話をしてくれる。

「おんなじやり方を教えてやっても(自分と)おんなじ炭をよう焼けん。暑い日もあれば寒い日もある。天候で炭窯の温度は変わるじゃろ?そのときにどう対処するかは職人の勘でしかないんや。これが秘伝と言われればそうなるか。炭と向き合ってきたこの経験はなかなか伝えれんもんや。自分で経験せな本間に自分のもんにはならんじょ?」

25年生きてきた自分と40年以上炭と向き合ってきたおじいちゃん。

とてつもない、なにか大きなものを感じた。

ただ感じたにすぎないが、僕の選択した道に間違いはなかったんじゃないかと誰かに背中を押された気がした。

深く深呼吸して、お茶をすすった。

おじいちゃんは胃が良くないから、こしらえた緑茶をさらに自分でフライパンで煎ってカフェインをとばしてから茶を淹れる。

その茶がまた本当に美味い。

気づくと、おじいちゃんはまた大きな斧を振り上げ、スパッと大木を割っていた。

力むことなく、的確な位置に斧を振り下ろす姿にしばしの間、見とれた。

いつも腰にぶら下げているラジオからは昔の歌謡曲が流れていた。

もはや少し筋肉痛で痛い、情けない自分の両腕をポンポンと叩いて、僕はまた木を運ぶのを続けた。


ど田舎の水曜日,フジモトユウキ