ここが変だよ、エスパーニャ!
2009年10月、ギリシャを震源地とする欧州債務危機が起こり、
ユーロ圏の国々を巻き込んでからまもなく3年が経とうとしている。
そして、その経済危機の被害を最も被った国の一つがスペインだ。
EU統計局(Eurostat)が毎月発表している、スペインの失業率を参照してみると、2012年8月31日に公表された同年7月分の値は、なんと
25.1%!!
国民の4人に1人が仕事をしていないことになる。
(ちなみに日本は6月分の値で4.3%)
そして、より特筆すべきは若年層(25歳以下)の失業率である。それはなんと
52.9%!!!
若者の半分以上が手に職を持っていないのだ。わかりやすくするために同じように日本と比較してみると、総務省統計局が公表している労働力調査によれば、15歳~24歳の年齢層における完全失業率は8.3%だという。
ここまでで、スペインという国が抱える問題の深刻さをお分かりいただけたと思う。
しかし、なぜ僕はこんなデータを引っ張りだしてきたのか。
それは、僕自身、スペインはバルセロナに10カ月ほど留学していたが、こんな深刻な問題をスペインが抱えているということを感じなかったからである。
もちろん、スペイン滞在中にニュース等で若者の失業率が報じられているのは何回か見たことはある。また、僕自身が出会ったスペイン人たちというのが、偶々そういった問題からはほど遠い生活をしている人達だっただけなのかもしれない。しかし、様々な都市でスペイン人たちと接していると、仕事が見つからないことに嘆いている様子も見せず、まるでそんな問題なんて存在しないとでも言うような振る舞いをするのだ。
ここでは、僕が経験したそんなスペイン人たちを紹介していきたいと思う。別にスペイン人の悪口を言おうとしているつもりは毛頭ない。
大好きなスペインの、
スペイン人の“良いところ”を紹介したいのだ。
もしかしたら、「スペイン人は問題を度外視する責任感を持たない国民だ」と感じる人もいるかもしれない。もしくは「独首相のメルケルさんも大変だなあ」と同情の念を抱く人もいるかもしれない。
ただ僕としては、日本人がなかなか持たない、物事を楽観的に、なおかつポジティブに考え、自分の人生を最大限に楽しむスタイル・考え方を感じていただけたらと思う。
ケ・セラ・セラの、のんびりしたスペイン人たちを篤とご覧あれ。
タクシー運転手の例
僕がスペインのバスク地方にあるサン・セバスティアンという都市に旅行した時の話である。
僕は根っからのサッカー好きで、旅の行く先々でサッカー観戦をするという習慣があった。
この時も、サン・セバスティアンをホームとしている「レアル・ソシエダ」というチームの試合観戦を行う予定であり、訳あってこのチームの下部組織と縁があったので、いわゆるユースチームの試合も観戦することになっていた。
ユースチームの試合が行われるのは「スビエタ」という名の練習場で、市内から離れた郊外に位置している。そこまでのバスも出ておらず、僕に残された唯一の交通手段はタクシーだけだった。
市内から練習場まではタクシーで20分ほどで到着し、試合時間も余裕を持って向かえることができた。ただ、問題は復路に起こる。
手帳に控えてあるタクシー会社の電話番号に電話し、スペイン語で自分の場所、名前を言ってタクシーを手配した。電話口のスペイン人(ここではバスク人と称した方が適切か)は、「大体15分ぐらいで到着するよ」と言っていたので、練習場入り口付近で時間を潰していた。
しかし、
一向に来ない。
30分近く経ってようやく一台のタクシーがやってくる。
運転手は着いて早々、申し訳なさそうに「遅れてすみません」と言ってきた。そして、二言目には「いやー迷っちゃってねー」と言い訳をしてきた。この言葉で、僕ら日本人が思うタクシー運転手とは両極端にいる人種だと気づかされた。
半ば呆れながらも、「日本の常識が通じないのがスペイン」という考えはある程度身に付いていたので、「大丈夫。大したことないよ。」と余裕あるアジア人を演じて、乗車した。
助手席に座って行き先を運転手に告げ、晩飯はどうしようかと考えていた矢先、おかしな光景が目に飛び込んできた。なんと料金メーターが往路の料金の倍を示しているではないか。
あまりにもあり得ない状況だったので、しばらく様子を見てみることにした。
しかし、乗車時の料金以外はおかしかったものの、その後はいつも通り一定の距離を走る度に一定の値段が加算されていく。
頭の中でいろいろと理由を考えてみたが、どうにも「この運転手はこのアジア人からぼったくろうとしている」という理由しか見つからない。
こういう時は黙っていたら負け。ここは敢えて普通のトーンで運転手に尋ねてみた。
「何でこんなに料金が高いの?行きの時の料金の倍以上はあるんだけど。」
「ああ、これね。さっきも言ったと思うけど、スビエタまで来るのに迷っちゃってさ。たぶん、迷って行ったり来たりしてる間に料金が上がったんだと思う。」
いや、待て待て待て。なんで、この運転手は質問に対して真っ直ぐすぎる返答をしてくるのか。最早バカを通り越して返答がピュアすぎる。これほどまでに純一無雑という四字熟語が適当な人間がいただろうか。
「いや、そうじゃなくて、僕が払うべき料金は僕が乗車したスビエタから、行き先であるサン・セバスティアン市内までの料金でしょ?つまり、あんたが迷った分だけ払う必要はないんじゃないの?」
「ああ、確かに言われてみればそうかもしれないな。わかった。
これをリセットするよ。」
と言った瞬間、メーターをゼロに戻した。市内まで20分までかかるところ、すでに10分以上走った場所でだ。
「え、今ゼロに戻したら、料金安くなっちゃうよ?」
言わなくてもいいのにこっちまで、余計な心配をし始めてしまう。
「確かにそうだけど、俺のミスだからね。しょうがないよ。おたくは気にしなさんな。」
こういう時に「やれやれ・・・」という言葉を発するのか。
「それはそうと、あんた日本人だろ?」
「そうだけど、何でわかったの?区別できるの?」(あっちの人は我々アジア人を引っ括めて“中国人”と言う)
「いや、実は日本人の友人がいてさ、そいつもおたくみたいに“良い人すぎる”んだよ。」
なんとも小説のような言い回し。でも、こう言ったのは今でも鮮明に覚えている。そして、彼の性格から察すれば、到着後徴収した料金が行きの半額だったのは言うまでもない。
満を持してこう言いたい。
ここが変だよエスパーニャ!!
《ヨーロッパ統計局(Eurostat)の8月31日のデータ》
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_PUBLIC/3-31082012-BP/EN/3-31082012-BP-EN.PDF (3ページ目、4ページ目の表のESの欄)
《総務省統計局の労働調査》
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/05400.pdf (6ページ目の15歳~24歳の完全失業率の欄)
来客は金曜日, ハマダナオキ