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2013年4月25日木曜日

【小説】泡になりたい、君と。〈No.9〉

僕がバンタロウに全てを話した後、彼はいつの間にか飲み干していたグラスをマスターに返却し、三杯目のビールを注文した。そして僕の背中をポンと叩き、何か言葉を発するかと思いきや目を瞑って俯いた。約5秒が経ち、何か自分の中で考えを咀嚼し終わったのか、バンタロウは僕の目を見て言葉を発した。

「奈海ちゃんのこと、まだ好きなのか?」
バンタロウは至極真面目な顔で僕に問いかけた。僕はビールに口をつけそうになるのを体中の全神経を総動員して制御し、率直な想いを口にした。
「分からない。」

いつもは緩やかなこの空間がほんの少し張り詰めていた。カゲロウさんはさすがプロである。ため池の主がどこでアメンボが水面を歩いてもその場所を正確に把握できるように、カゲロウさんも自分のお店の空気の流れには敏感で、ここしかないというタイミングでバンタロウに三杯目のビールを手渡した。

不安定な木曜日, ノムラカズユキ