「奈海ちゃんのこと、まだ好きなのか?」
バンタロウは至極真面目な顔で僕に問いかけた。僕はビールに口をつけそうになるのを体中の全神経を総動員して制御し、率直な想いを口にした。
「分からない。」
いつもは緩やかなこの空間がほんの少し張り詰めていた。カゲロウさんはさすがプロである。ため池の主がどこでアメンボが水面を歩いてもその場所を正確に把握できるように、カゲロウさんも自分のお店の空気の流れには敏感で、ここしかないというタイミングでバンタロウに三杯目のビールを手渡した。
不安定な木曜日, ノムラカズユキ